他愛もない話

他愛もない会話をしばらく
忘れている

前の恋人の
その前の前の恋人がたしか
(どんな顔をしていたか思い出せないけれど)
他愛もない会話を好んでいた
でもとてつもなく退屈で
しかも品がなかった

簡潔で奥深くて
ユーモアが含まれて
それでいて美しい言葉を放ち
その言葉たちの色が
空気中に漂うようなものがいい

放たれては消え
放たれては消え

話が逸れた
すぐに脇道に入りたくなる
晴れた日にジェラートをかじりながら
大通りから路地へ入り
狭く日常的な路地を眺め
決まって空を仰ぐ

ここはミラノか
または東京か
ここはフィレンツェか
あるいはわたしの住む街か

記憶の隅にもかからない
会話の云々は
やはりわたしの頭のどこにもない
どこにもないけれど
その情景はありありと
浮かび上がりのぼっていく

こんどはTシャツの胸ポケットの話を
美しくしたいと思う

暑いからといって
全裸で眠るのはどうかと思う
という話でもいい

他愛もなく退屈もなく
品よく可笑しく