月別アーカイブ: 2015年10月

夜街

ある晩の
ある街の
ある交差点のある点滅する赤信号で
わたしは生存した。

昨日を見つめる目は窪み
果てて
一点の幸福を求め
果てて
不埒な足取りで
謝罪の意味を問う。

本棚に眠る
まだ見ぬ書物を想像し
鞄にへばりついた
読みかけの文学的文学を
忘れ去ろうと
している。

くわえた煙草に
火はともらない
人さし指と中指の区別もつかずに
必死に
つかもうとしているのだから。

もう此処は
誰のものでもない。

点滅する赤信号の下で
見上げる空のなかに
重なる白い月が
立ちすくむわたしが
生存した
ひと呼吸。