助走 とても短い助走だと思った 僅かに湾曲したカーブを抜けて 仄かに薄暗いトンネルに入り 当たり前の表情で真ん中を通る者を ぎりぎりのところでかわしながら 細かく前へステップしていく 息を整え時間を十分に使いながら と思いつつも 言葉と感情は交わらない まるで まるでのあとが思い出せない 電話の声が蜜のようとか 髪型と服装の共有とか 時間的な錯誤とか とは 結局のところ 森のさえずり 海のこどう だれにも言ったことのない 生身の対話 走り始めれば あとは。