夜街

ある晩の
ある街の
ある交差点のある点滅する赤信号で
わたしは生存した。

昨日を見つめる目は窪み
果てて
一点の幸福を求め
果てて
不埒な足取りで
謝罪の意味を問う。

本棚に眠る
まだ見ぬ書物を想像し
鞄にへばりついた
読みかけの文学的文学を
忘れ去ろうと
している。

くわえた煙草に
火はともらない
人さし指と中指の区別もつかずに
必死に
つかもうとしているのだから。

もう此処は
誰のものでもない。

点滅する赤信号の下で
見上げる空のなかに
重なる白い月が
立ちすくむわたしが
生存した
ひと呼吸。