アオ

アオは長い口笛を吹いた。
これから始まる旅立ちを予感させる、長く乾いた音だった。僕らは職場の無機質な窓から、その音を耳にし、見たことのない白鷺の大群が北の空へ消えた。
アオはそれから数日のあいだ、人知れず眠っていたらしい。突風で窓が揺れ、積もった雪が屋根から落ち、新聞配達員が氷で足を滑らせ、黒猫が雪の中を埋もれるように走っていても、彼は静かな寝息をたてて、刻々と眠った。

僕らが彼を見たのは、彼が目覚めた日の午後のことだった。交差点の向こう側に立っていたアオは、どこかはつらつとした表情をしていた。いつもかけている眼鏡をかけていなかったからかもしれない。数日の眠りから覚めたあとだからかもしれない。
そして、アオは深々と頭を下げた。しかし、視線は合わなかった。ただ、深々と頭を下げた。

空には一筋の飛行機雲がアオと僕らを隔てる境界線のように伸びている。
地上には車が行き交い、犬が散歩をし、人々は欠伸をしている。

口笛はただの口笛だったのかもしれない。気分のよい音色だったのかもしれない。
想像はどこまでも想像でしかない。個人には個人の理由があり、集団は集団の理由がある。
アオは僕らには知らない理由を見つけたのだろうか。

僕は部屋に籠り、週末を過ごしている。
人知れず、誰にも遮られずに、眠りたいときに眠るのだ。