月別アーカイブ: 2017年12月

見下ろす夜

隣にいる
女を抱きたいとおもう
でもきっと叶わないから
それならいっそ
この水を思い切りかけてみたらどうか
突然のことに女は困惑し
そして恐怖を感じ
その場を立ち去るかもしれない
でもきっとその前に
僕は我に返り
女に謝罪するかもしれない
そうすると女は
憤慨して僕を吊るし上げるだろう
店員に報告し
店員が警察を呼び
僕に残される道は
必死に謝るしか
正当な道は残されていない

このコーヒーショップに入ったとき
僕は窓際の一番角の席が空けばいいのに
と思った
髪の毛をやたらと指先で弄び
時折甲高い声で笑う女ふたり
ショーケースに並んだ菓子を
一通りたべたいと思いながら
注文の順番がくると
さっき見ていた菓子を
見ていなかったことにするように
カプチーノだけを注文した

窓の向こうには
瞬くような夜が広がり
上質な衣服を纏いながら
大人たちが歩いていく
ネットニュースに正義を感じ
あらゆるコメンテーターの言葉を知り
あらゆる言葉を正面から捉え
そしてあらゆる正義を見逃さない
赤信号にクラクションが響く
赤色灯が乱反射する
あらゆる速度を追い越すように
タクシーの渦が広がっていく
道に溜まった落ち葉に
通りすがりの煙草が吸い込まれていく

僕の右手には
飲みかけのカプチーノ
それから
欠けていく月
コーヒーショップの店員の
快活なアナウンスが
一番正しい