ビニール傘と夕方

雨、降ってるんだね。
と云いながら
差し出した傘は
コンビニで売っている
少し高めのビニール傘だった

それをどうするべきか悩んでいると
傘を広げ歩き出して行ってしまうので
私は追いかけるように傘のなかへ入る
世界が紫色に変わったそこは
雨に濡れた埃の匂いがした
なぜだか蒸かしたばかりのさつまいもの香りもして
一日が今この瞬間に集約されて
切ないとも悲しいとも違う
近くの川に流されて消えていくような感覚のなか
陽がゆっくりと傾いていく

この雨が
このまま散弾銃みたいに激しく叩きつけてきて
ビニール傘を突き破って
私たちごと貫けばいいのに
まさかこの日このときが
なんでもない平凡だなんて
だれも信じてはいない
ましてや平凡が特別だなんて
嘘みたいだと

ビニール傘から滴る雨粒のひとつひとつが
私の涙ごと連れ去って
意味もなく絡まって絡みついて
あしたにはすべて忘れていって
家のビニール傘がまたひとつ増えていく