夜毎ぼんやりとアイス

夜毎ぼんやりした

正直云って
コーラがただの飴色した液体になるまで

わたしのまわりの
木々がざわついている

此処は日本ではないのに
窓の向こうだけ
外国みたいな気分になる

この部屋だけは
パスポートいらず

やたらと分厚い
アパートの壁を隔てて向こう側に
わたしは真夜中
一歩を踏み出した

時間はわすれた
見ていないから

ダウンジャケットに手を突っ込み
毛糸の帽子をかぶって
一駅むこうのガソリンスタンドまで

いくつかの家の窓から漏れる光と
等間隔の街灯以外
ほとんどの灯りは存在しなかった

パン屋もスーパーも
レストランもカフェも
わたしが立ち寄れる場所ではなかった

ガソリンスタンドの売店で
ハーゲンダッツを買った

ふてふてと歩く
わたしの足音と
冷たいハーゲンダッツ

分厚い壁の向こう側にある
わたしの部屋には
夜毎ぼんやりするわたしがいて

いまのわたしは
真冬の真夜中の遠い国で
世界的なアイスを握りしめる

冷たいのは局所的だ