記憶の街

帰国して
数年が経った
あの街を
快適だったとおもうようになった
数年のことなのに
めまぐるしい速度で
わたしのまわりを
びゅうびゅうと追い越していく
取り残されたのは
記憶と肉体
そしてわたくし
時差すら遠い過去なのに
もっと夏を愛せばよかった
もっと秋を捕まえればよかった
もっと冬に浸ればよかった
と、いつも黄色いカーテンの向こうを浮かべる
現実だったとはつゆ知らずに
クリーンすぎるごみ箱とか
静かすぎる街路樹とか
快適だったのは
記憶そのものかもしれない
ただ
呼吸した記憶はあまりない
言葉をつづった記憶もない
だから朧げで不確かで不確実で
いつも視線が刺さるのか
大事なのは葉っぱの数ではなくて
それが木にみえるか森にみえるか山にみえるか
それとも葉にすらみえないか
ということに今更ながら気づく
たいていのことは
決めてくれる
公園の鳩ですら
決めてくれる
わたしの街とわたしの街が
もうすぐ夜と重なっていく
取り残された肉体を
記憶とともに拾い集める番
数年たしかに
わたしは生きた
めまぐるしいかどうかは別として
葉っぱの落ちる音が聞こえた夜に
寄り添うようにして