線路沿い

白くぬられた空の下を歩いている
白い絵の具を水で薄く伸ばしたような色で
それをまばらに広げていったみたいな
夢のような
それでいて現実的すぎるような
底の見えない川みたいだ

線路沿いの道を歩いている
どこまでも続く出口のないトンネルみたいな
不気味な永遠を感じた
様々な色合いの服を来た連中が
腰をくねらせたり
腕をおどらせたりしながら
どこかへ向かって歩いていく
男たちの顔には髭があり
女たちの頬は赤かった

駅のプラットフォームには
規則正しく並んだ人々がいて
それとは対照的に
ぼくの歩く道の足下には
煙草やガムが散らばっていた
歩いてきた人々の印みたいにして

週末に行列をつくる焼き菓子屋は
臨時休業で閉まり
イタリアから来たシェフがいるという
レストランにはやはり日本人の
やはり髭面の男が
長い髪をしばって
注文されてもいないカクテルをつくる

様々な場所から出発した線路は
やがてひとつの駅へ集まっていく
案ずることは無い
来た電車に飛び乗るだけだ
それぞれの手足の長さは決まっているし
脳みそのひとつひとつを
他人と比べられることもない
空の色がとらえきれない
色で構成されていたとしても
女子高生の話し声や
結婚式帰りの集団に導かれるように
交差点を過ぎ去り
街の中へ進んでいくのだから
車の鍵を探す必要はない
髭をそって靴紐を結んで
ショルダーバッグをひとつ肩にかけるだけ

白くぬられた空の
西のほうから太陽が照り
やがて浮き彫りになった青
立ち止まり空を仰ぎ見た
流れに逆らうように
それが自然なことのように
ぼくがぼくであるかのように