あなたは頭を叩かれた
その瞬間
体育の授業でのマット運動の
うまくできなかった
前転やら後転やらを思い出した
天井から地面から壁から人まで
すべてがひとつである瞬間のこと
前転よりでんぐり返しのほうがしっくりくることは
置いておいても
頭を叩かれたとき
そう思った
学校が終わると
誰にかまうことなく
のんびりと歩いて駅へ向かった
駅までの道は限られた果てしなさがあって
退屈しなかった
でも嬉々ともしなかった
横からクラクションが響けば
後ろから蛇行しながら走る自転車が追い越していく
だんご屋のおばさんと目が合うことをのぞけば
ひとりきりの道だった
所々で雲が渦を巻いていた
雨は降らないが晴れているわけでもなく
雲は多いが曇っているわけでもなかった
青が見えるのにほんのりと暗い空だった
髪を切りたいと思う
歩幅を変えずに歩く
新しいスニーカーが欲しいと思う
思うだけで
本当ではない気がした
からだじゅうからわたしが抜け落ちて
一歩一歩が
アスファルトに象られて
曇りみたいな晴れが
くうきじゅうにはめ込まれて
苛々するわけでもなく
口を結んで前をみつめた
前髪がやたらと長いわたしが立ち
同じように口を結んでいる
わたしから出た言葉は
あなたは
から始まる言葉で
わたしは
からではなかった
せんせい、叩くなら今です
今しかないのです
それでも歩幅は変わらずに歩いた
駅前のコーヒーショップに
クラスメイトがいるのが見える
名前は
A子ちゃん、B子ちゃん、C子ちゃん
いずれそうなる
わたしから始まる言葉で
今は汚したくない
改札を抜ければ
時間が運ばれてくるのに
のに
なんてとても都合のいい
ホームにいる鳩を
目だけで追いかけて
唇をきゅっと噛み締めた(のに)
のに
なんて楽なこと
向かいのホームに電車がやってくる
わたしのところには五分後にくる
それまでベンチに座って
あなたから始まる瞬間を待ちわびる