一日、泣いた日

ずんぐりとした
コーヒーカップに口づけして
あなたはわずかに微笑んだ
真黒な液体には反射しない
ほんのわずかな微笑み
コーヒーカップの縁を
薬指でそっとなぞるだけで
今日という世界が
こんなにも静かになり
風が見事に軽やかに弾むのだ
奇跡ではない
あなたにとって
取るに足らない動作であり
ほんのわずかな微笑みなのだ
微笑みこそ
あなたなのだ
テーブルに置かれた
一輪の花に目をやれば
わずかに華やぐし
空を見上げれば
雲が泳ぐのだ
あなたはいつも
注意深い
指の爪ひとつとっても
綺麗に整えられている
耳殻は丸く弧をえがき
首筋に向けて終着している
呼吸はほとんど見えない
見えないことが
なによりも見えないように
あなたは
明日の色を見ないでいる
森の真ん中にいるように目を閉じ
白く細い手で耳を塞ぐように遮断する
夕陽が窓から消えるまで
泣いてうずくまるように
あなたは笑っている