落下する(バスタブ)

わたしの目から溢れ
たまらなく溢れ
静かに落下した。
混合することなく
飛ばされることもなく
かなしいほどに
際限なく静かに
落下し、沈んでいった。

四角い空間に散らばる
無数の温かさや冷たさの粒たちが
わたしのからだを象り
呼吸すら大きく放たれてしまう
だから極力静かに
からだから出るかなしみの粒を
静かに落下させる。
かなしいほどに
わたし自身にも
気づかれないように。

ほろほろと溢れる液体は
沈みこみ、解け合う
とおもっていた
しかしそれは独立する
小さな意思として
あるいは小さな細胞として
キラリと沈んだ
そこにかなしみはなく
落下する音と
微細に変化する
無数の粒が
そこにあるということ
そしてわたしはまた
息をひそめるということ
ここはバスタブであるということ
それだけだった。