深黒(しんくろ)

結論から言おう。
これはとてもつまらない話なのだ。

とあるビルのバーカウンターに、一匹の猫がカティサークをなめている。
真っ黒の服を着ているのか、真っ黒な猫なのかわからないが、猫はバーカウンターに溶け込むように黒くしている。

バーテンダーが、ツナサラダのサラダ抜きを提供するあいだ、猫は世間話を言葉抜きで話しはじめる。

にゃーも言わなければ、しゃーも言わない。

猫は黒の蝶ネクタイもしている。
ここは蝶ネクタイがとてつもなく似合う場所なのだ。
足を組み、ときおり氷の音を響かせ、思い出したかのように喉を鳴らす。

客の数が徐々に少なくなり、不思議と部屋が明るくなったようだった。
猫はドアを開けて、外へ出る。
朝が来るまで、まだ時間がかかる。外は暗く、街灯が果てなく続いている。古びた居酒屋の看板、獣のように過ぎていく車、数え切れない大人に類するもの。

あどけなく笑った猫は、二本目の路地を曲がり、飛ぶように駆けて消えてしまった。

わたしは、部屋のベッドに横たわっている。
とあるバーでカティサークを飲みはじめてからの記憶が薄い。
ひたすらに暗い場所にいた気がする。
猫。
わたしの隣に猫がいたような、グラスに映ったわたしが猫だったような。

朝まではまだ時間がある。
それが正しいのか正しくないのかは別として、水を一杯飲もうと思う。