少年

そうして少年は
恋に落ちて、愛に近づいた

しかし
恋は落ちない、と男に云われた

顔は見えないが、鋭い眼を感じた

そうして少年は
青年になり、いくつかの恋を重ねた

しかし
恋はあがるどころか、過ぎていくばかり

男は
夜深く、彼の部屋へ現れた

鋭い眼と冷たい声をして
彼の耳元でぼそぼそと呟いた

梅雨を予感させる、雨の日だった

そうして青年は
歳を重ね、あるいは過ぎ去られながらも
大人という枠組みになった

彼はあの男のことを考えた

知り合いかどうかではなく
どのような言葉を放っていたのかを考えた

彼は涙した

あらゆる日日がわたしにとって
わたし自身そのものであると
かけがえのない時間であったと
夜な夜なひとり、涙した

そうして彼は
かなしみを知り、男になった

雨がまた
ひとつ、ふたつ、と落ちて

静かに、あがっていくのを待ちわびながら

少年は
遠い日の夢を、思い出している