ちいさな人

ちいさな人の涙が飛んだ
ひかりを通って飛んでった
たんぽぽの綿毛みたいな風花が
上下に泳いでいるようだ
彼らは抵抗をもたないから
大地のおんどで消えるまで
泳いで躍って囁きあって
ぼくの胸はあつくなる

寒さを忘れて立ちつくした
遠くの山までよく見える
あの海岸も綺麗だろうな
愁いてたたずむ雲のした
クラクションまでよく響く
ちいさな人の静けさは
どこまでも静かにひっそり

夜になると語り出す
ちいさな人の滑舌のよい語り
それは現実を捉えすぎた語り
思い出も感情もない
事実のみを告げる幾分乾いたステレオ
存在は時として湾曲を加速させる
ちいさな人はよく知っている

ちいさな人の声が飛んだ
愛に満ちた無数の個
それ故の大きなかたまり
ぼくの隙間を知っている
ぼくも知らない隙間すら知っている
肯定も否定も単純も複雑もない
ちいさな人の存在それが
愛のつづく確かな合図