名もない旅人

旅人は顔を見せない
帽子を目深にかぶり
その下から太陽を覗く

そして恋を大切にするために
花を愛でることも忘れない

鞄の中身はそれほど多くない
読み重ねた本と手に馴染んだ手帳
季節の葉を栞にして
季節の葉や種や花を飲み物にする

旅立ちはなるべく声に出さない
ほんの少しだけ人との時間をずらすだけ
長い手紙も贈り物もしない
ただ言葉だけは残るようにしている

旅人は顔を見せない
首に布を巻いて
息を吐いて歩いていく

そして愛をするために
健やかな眠りを忘れない