二五四

ぼくの幸せは些細なことで
都会から帰った田舎の都会の道端を
ふらりふらりと歩くうちにぼくは
求める些細なことの数々を知るのだ
つまりそれは見た目重視のデートの後であって
とりあえず帰った田舎の都会であって
まだ健全な夜の時間のなかで考える思考であって
例えば近所に飲食店が複数こじんまりと佇むところに
くたびれたTシャツと短パンで出歩けて
気兼ねなくビールが飲めるようなことであって
そうするとひとりの居心地に慣れることができて
だけれど愛する人もなんだが欲しくなり
でも結局ひとりが心地よかったり
今日歩いて見たことのそれらを思い出して
溜め息なのか呼吸なのか知らないなにかが
よく見えない空に抜けていって
最近の車は路面をタイヤが滑る音だけしか聞こえず
クリーンなはずのそれはどこか不気味であり
閉店した電器店が未だに明るく
白い犬が横断歩道からこちらを見ている
結局ビールも愛もなかったけれど
高速バスの看板の前でどこへでも行けることを知った気がする
それでも思考はまだまだ先へ急ごうとしていて
おもむろに立ち止まりスキップ
そこで今度は違う白い犬と目が合う
さっきよりも小さいもけもけした犬
大音量で流す音楽に助けを求めて
寄り道しながら家に帰る
美しいものの形を知りたい気がして
いつもよりアクセルを強く踏み込んだ二五四で
炭酸水が鞄のなかで膨らんで揺れている
もう何年も前の思い出というただの記憶を辿って
ぼくの精神はいくらか恍惚としているが
しかし夜中に些細なことの数々を
思い出して振り切ってひたすらにくつくつと笑うので
なんとなくいいような気もする
また一台二台と路面をタイヤが滑っていく一方で
もうすぐ
いますぐ
あのあとすぐ
ぼくの声が響けばこうして笑うこともなかったようだと
いつかまた思うことになるのだろうか
そのときの些細な幸せを少しだけ
ほんの少しだけ知ってみたいと少しだけ思う