あれから

どんよりと暗い冬の最中
霙混じりの風に吹かれて
洗濯物の数々が揺れる
ジーンズの後ろポケットから落っこちた
ドーナツの広告
大きな鞄が口を開けて
いつもより厚い雲が灰色を濃くしていく
アパートのベランダから見える
煙突とひび割れた壁
窓に反射する太陽は
いつもいつも傾いて
見えた頃には気怠くなっている
多すぎる髪をひとつに結って
僕の着古した真っ赤なセーターを無造作に
ほとんど躊躇いもなくつっかぶる
音楽がノートパソコンからランダムに流れつつ
肌で肌を抱いた
音が何処からともなく消え去っていくと
その途中に見える動物たちの面影
それはいつだったか
雨はほとんど降らなかったことが幸いして
歩くことにも話すことにも
手間取る心配はなかった
ただそれが今にとってよかったかどうか
小さな部屋にはテレビがなかったし
DVDもろくに観れやしない
日焼けした本が数冊並んでいるだけ
キッチンに食器が浮んでいるだけ
部屋の壁はいつまでも白く
玄関のドアはギコギコと音がする
こちらで夜明けを感じるころ
あちらで夜更けを感じる
あれからまだ
まだそれは
僕の意識では到底抱えきれず
追憶の彼方にみえる
朝日を想像して
一歩二歩と湿った地面を蹴っていく
間違いはなく勘違いもなく
僕らは当然のように息を吸っている